<Vol.2 前編>
マーケティングで一時代を突っ走った、水口健二氏は1968年 SPEA東京支部、続いて1969年MCEI東京支部を創設した。
MCEI・・広く門戸を開放された、生涯学習の場である。
その年は米原子力空母エンタープライズが佐世保に入港、パリの五月革命、全共闘の東大安田講堂占拠、ベトナム戦争のテト攻勢、ソ連など5カ国によるチェコ侵入など騒然とする中で、その年アポロ11号が有人による初の月面着陸を成功させた。そして1970年は大阪で日本万国博覧会が開催されたのだ。
水口健二創設理事長は2008年10月にご逝去されたが、生前多くの言葉と予測を残しマーケティングの進むべき道筋を示している。

時代をミレニアルから始めてみたい。
21世紀最初の年は多くの悲しみと不安を抱えて暮れた。9月11日米国の同時多発テロ事件である。「こんな年があっていいのか。そう呼びたくなります。こうして大不況、大不安の中で21世紀最初の年がおわりました。このキビシサのなかで中心が崩壊し、通念が力を失ってきています。しかしマーケティングの世界では、まだ多くの通念がエラソウに生き残っています。許せません。いつまでもウソをつくなということです。」
2002年1月

「大不況、大不信、大不安が重なっている。メーカーも、流通も、金融も、自治体も、全部キツイ。どこをとっても需要減退、事業縮小である。この時期、全体とその平均を議論しても仕方がない。業界の通念と標準を問題にしても救いはない。閉塞、窒息、破滅があるだけである。だからこの時期は、例外と異常値を求めたい。しかし例外と異常値をそのまま受けとめたのでは、それはあくまで例外であり、異常値にすぎない。例外と異常値が持つ真実、その中に含まれている法則をとらえなければならない。」
2003年1月

「日本の消費はイイ。日本の消費者とメーカーは商品を進化させる力を持っているのではないか。逆にいうと、世界に起源のある商品は、日本を通過することによって、すごい進化するんじゃないか。自動車を教えてくれたのはデトロイトだ。だがそれをプリウスにしたのはトヨタだ。自転車をあのパフォーマンスに高めたのはシマノだ。トイレをウォシュレットにしたのはTOTOだ。エアコンを除菌イオンにしたのはシャープだ。ケータイを途方もないメディアにしたのはドコモだ。飲料をヘルシア緑茶にしたのは花王だ。そして、ハンバーガーを、日本の匠味にしたのはモスだ。」
2004年1月

2003年から2004年。
日本は不思議な商環境の中にあった。「大企業が最高益を計上し、消費者の家計簿はマイナスが続き、ビッグチェーンはニッチもサッチもいかないところにきている。オカシイ。どう理解すればいいのか。リストラと輸出と中国生産が企業利益を産み出したんだ。だから消費生活を豊かにする力はないんだ。・・・ということだろう。」
“オカシイ、許さない。” 
①売れたら商品の強さ、売れなかったら営業の弱さ。このロジックオカシイ、許さない。 
②消費者も販売店も要るものしか要らない。 
③いいものを作る。いい商品が売れるというのはウソだ! 
④商品は集客力のサポートを受けないかぎり、顧客の喜びに辿りつけなくなってきている。顧客接点優位だ! 
⑤集客力にカネを払う消費者はいない。だから集客力も、商品力のサポートを必要としている。 
⑥流通の負け組、価格こそ消費者の求める価値だという戦略のダイエー。 
⑦勝ち組といいながら営業利益率の落ち込み方がヒドイ、イオンとヨーカ堂。 
もう一度、メーカー営業がちゃんとした役割を果たすべきときがきた。顧客の喜びのために価値実現、感動プレゼンをするとき。営業を価値実現という誇り高い仕事に再生するということだ。
2005年1月 

“過去という未来” 
「日本の今の消費リーダーはシニアだ。近未来はもっとシニアになる。しかもハッキリと女性だ。なぜか。大きな集団だからだ。カネと時間をもっているからだ。その上に・・・ここが肝心な点なんだが、彼女たちが家族の犠牲となった35年をとり返そうと考えているからだ。“わたしらしいわたしに戻りたい”と決意しているからだ。彼女たちの求めている価値とは何だ。楽しい時間だ。おしゃべりだ、旅だ、山だ、河だ、風だ,美味しい食事だ。その日本が傷んでいる。どうすればいいのか。
「ワー、スゴイ、うれしい、ありがとう」を言ってもらうためにはどうしたらいいんだ。結論はハッキリしている。傷んでいなかったときの日本を提示すること。長い時間が育んでくれた、美味しい時間だ。そんなものがあるのか。無い。・・・ではどうすればいいのか。創るんだ。過去に存在していた以上に美しいレベルで。これが世界一のスピードで人口減少が進む国のマーケティング、「過去という未来」の創造なんだ。
2006年1月

“ゴッツイ闘いになる” 
06年12月セブン&アイH.が12000店のために、向こう3年間で1200品目のPB商品を開発導入する。セブンの売上2兆5000億円のうち、すでに50%強は、共同開発商品。イオンの吸収、提携、による規模の拡大はメーカーに対するバイイングパワーを高めるためだ。・・・ここに起こっていることは、「全製造業対全流通業との闘い」である。チェーン相互の闘いではないんだ。全産業が流通の再編、つまり交渉力アップの中で、戦略主体としての存在を問われるようになってきているんだ。この闘いーその勝負。その答えは消費者が出す。全コストの負担者だ。
2007年1月

今度の値上げの根本的特徴は2つ。
ひとつは、一斉だということ、もうひとつは、全産業、全商品を包み込んでいること。なぜ、こうなるのか。その理由も2つ。ひとつは、現在産業社会の血液である石油の高騰があること、もうひとつは、実態経済の100倍といわれるファンドマネーが、利益を求めて世界中を暴れまわっていること。今、資源は、国の競争の武器になったのだ。そして、資源小国日本は突然世界の弱者になったのだ。・・その問題解決の責任者は誰か?政府だ、政治家だ、省庁だ、役人だ。かれらはアテになるか。全くアテにならない。そういう問題意識をもっていない。
エライコッチャである。
豊かな消費、その消費のための流通、その流通のための生産、その生産のための原料確保。この連関が保証できなくなってきている。
ホントにエライコッチャである。
もっと大きく、もっとちゃんとした形で検討しなきゃいけない時なんだ。
ウーン、困った。ツライナア。
2008年 1月

「製造業と流通が、消費者のためにもっとちゃんと協働することが大切なのである。」 ①顧客願望の理解:進化した顧客願望、その理解を共通のものにしなければならない。両者共にこの願望についていけなくなっている。 ②商品コンセプトの理解:売ろうとする商品のコンセプト、つまり“特定の顧客集団にとっての、他のものによっては得られない特別の価値”への理解を共有する。 ③チェーンポリシーの理解:チェーンの業態、そのポリシーの理解である。広域展開するチェーンは現在いかなるチャネルにおいても、広義の商圏において相互に闘い、似たようなチェーンが二つあればそのどちらかが必ず弱る。さてどう協働するか、以上の課題に向けてこの完結力のない戦略主体が、“顧客の喜びのための競争”でどう協働するのか。水口氏が投げかけた課題である。

後編へ続く