理事長の橋詰です。2月定例会(2018/02/08)のレポートです。

小嶌久美子さんのこと
世界のコワーキングスペースを巡り、コワーキングスペースの実際を語ることはそのヒューマンスケールの空間デザインを論じる事だという。目に見えない数値化されない空間の価値までも、体験したまま明晰に伝えることを目指している。小嶌氏は東京大学工学研究科土木を修了しその後ニールセン・カンパニー、リクルートパートナーズを経て、2015年より京都を拠点としてフリーランスとなった。行政からコワーキングスペースの調査を委託される、その他にも観光事業やコワーキングスペース立ち上げにも幅広く関わっている。今回のテーマは「世界のコワーキングスペース事情〜異業種・多職種が集まるワークスペース、その共創の仕掛けと作り方〜」である。

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コワーキングスペースが今注目される理由とは
便利な立地に多様な空間、最新のIT環境などを備えた“働く場”を、それぞれ個別の仕事を持つ“働く人”たちが共有することがコワーキングである。
起業家やフリーランサーなど個人が集まることで始まった新しい“働き方”だが、その波は企業、企業人にも及んできた。世界のコワーキングスペースは2010年には7800か所に急増している。(米・総合不動産サービス業ジョーンズ・ラング・ラサール調査)
コワーキングスペースの柔軟性は高い。月単位、一人ずつなど期間や人数が少ない数量から調整可能なので長期の不動産計画に縛られない。社内のニーズの変化に応じて仕事の場を低コストで調達できるのでかなり自由度は高い。企業は競争の激化と既存事業の変化にさらされており、柔軟なオフィス投資へのアクセスが重要になってきている。
日本には、会社が第二の家族となり何十年も一緒に過ごすような組織文化がある。まだまだ多様性の低い職場が多い。こうした環境下では、反対意見を述べるということはリスクとなり、権力のある人の意見や集団の空気を忖度し、それに沿った形で同意する「集団思考」マインドに陥る可能性が高まる。
このような「集団思考」の環境下ではクリエイティブなアイデアは生まれにくいし、有意義なコラボレーションの形成も困難である。今日では多くの企業がこの硬直的な組織あり方に限界が来ていることに気づいて、オープンイノベーションやコワーキングなど、より多様性があり、開かれた環境を提供することに積極的になってきている。
どうすれば企業はより深く個人の成長にコミットできるのか。経営者や組織のリーダーは、個人の成長を組織の成長につなげる視点を持ち始めている。目先の効率ではなく、個人の自由な働き方や新しいアイディアやイノベーションの「創造性」を促す環境である。いっそうの少子高齢化を迎える時代でもあり、どの世代もコワーキングは選択の幅を広げてくれるものとなる。

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コワーキングスペース、近代との相克で考える

コワーキングスペースを考えるにあたって、1960年代からの近代もしくは近代建築を批判したムーブメントを捉えてみたい。そこに現在のコワーキングスペースに繋がる里程標が埋め込まれているからだ

オフィスランドスケープ
ブルペンオフィスと呼ばれる1940年〜50年代のアメリカにおける典型的な大部屋形式のオフィス(間仕切りの無い体育館のような空間)をドイツのビジネスコンサルタントが視察し最初にこのコンセプトを生み出した。
1950年代後半から60年代後半のことである。ここから生まれたオフィスランドスケープとは近代建築の延長線上に現れた、当時新しく、極めて特異なタイプのインテリアデザインであった。ドイツ語のBuro-Landshaftから出ており、ヨーロッパで発達したオフィスプランニングだ。それは従来のモダンデザインの原則を破壊しているように見える。
平面計画では、家具や可働間仕切りなどが、空間にあたかも無秩序にばらまかれているような印象は、当時のデザイナー達に大きなショックを与えた。この手法を開発したハンブルグのクイックボーナー・チームは、実際デザイナーというよりはむしろオフィスマネジメントのコンサルタント達であった。
彼らはオフィスの運営内容を研究調査した結果、オフィスプランニングとは、コミュニケーションのパターンを基盤にすべきであり、他のデザイン上の諸条件(外観、地位や権威の象徴、因習的な形式など)はむしろ無視し、あるいは二義的な問題と結論づけた。
各オフィスの配置は、日々の作業機能によって最も重要なコミュニケーションの流れによって決定される。そこではコミュニケーションが極めて容易となり、循環する空間を共有する結果、スペースの節約とすべての運用が敏速かつ経済的となる。
あわせて従来の空間内の地位の象徴や価値を捨像することにより、オフィス内でのさわやかな人間関係やモラルを確立し、仕事の能力向上に役立てることを目指した。その設計手法は、まずオフィスの成り立ち、そこで働く人々が関与するすべてのコミュニケーションの調査から始められる。
そのデータを分析し、それぞれのコミュニケーションの最短距離を結ぶ一線にワークスペースを配置していくものである。レイアウトの詳細は幾何学的ではない。しかしこれは無秩序を意味するものではない。この設計手法は当時ヨーロッパを中心に発展してきた。

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パターン・ランゲージ
「パターン・ランゲージ」は近代都市計画批判の立場から新たな建築方法論として、カリフォルニア州立大学バークレイ校の環境デザイン学部教授だったクリストファー・アレクサンダーが1970年代から提唱しているものである。
その中で、人々が心地よいと感じる環境(都市・建築)を分析して253のパターンを提示した。
それぞれのパターンは集まり、それら相互の関係の中で環境が形づくられる。194は町・コミュニティに関するパターン、95〜204は建築に関するパターン、205〜253は構造・施工・インテリアに関するパターンで、そのパターンの例を上げると「小さな人だまり」「座れる階段」「街路を見下ろすバルコニー」など、これらのパターンは世界各国の美しい街や住空間に共通する普遍てきなものであり、かつては誰もが知っていたパターンであったが、近代都市計画による急激な近代化の中で忘れられてしまったものである。
既存の建物を撤去したまっさらな土地に区画整理を導入し、道路や建築を立てるといった近代都市計画とは正反対の思考であり発想である。既にある街の文脈を読み、狭い路地や目にとまる植栽、窓からの眺めといったヒューマンスケールな情緒的、詩的ともいえる要素を重視するものであった。

建築の多様性と対立性
ロバート・ベンチューリの「建築の多様性と対立性」(1966年出版)は1960年代に近代の転機を理論づけたものである。当時正当な近代建築家は、社会的機能の複雑さを無視し、初源的で一元的なものを理想と考え単純性を追求した。いわゆるモダンデザインである。
ルコルビュジェは「明確でしかも曖昧さの無い偉大な単純形態」、ミースは「Less is more」 カーンは「単純性への欲求」と言った。近代建築を中心とする当時の革新者達は、要素を分離または排除することで建築やデザインの多様性を認めてこなかった。ヴェンチューリーはこの単純化に対して「単純性がうまく作用しないと、ただ単純さが残るだけである。
あからさまな単純化は味気ない建築を意味するのだ。より少ないことは退屈である。「Less is bore」ヴェンチューリは単純性(simplicity)と単純化(simpleness)を明確に区別する。近代の機能性や合理主義と合致し正当化され広がっていった単なる建築の単純化はすべての問題を解決できることはない。ミースの言葉を拡大解釈した、いき過ぎた単純化を批判した。
「単純性(simplicity)と秩序の間に合理主義が生まれたのだが、合理主義は激変の時代にあっては物足りないことがわかってきている。それとは正反対のものから、均衡が作り出されるべきなのである。そうして得られた内的平衡が、対立性と曖昧さとの間に緊張をもたらす。・・・・逆説をよしとする感情は、いくらか対立すると思われるものの共存を許容し、それらの不調和そのものがある種の真実を提示するのだ。
オーギュスト・ヘッシャーの言葉を引用、「何かを排除するのではなく、受け入れようとする建築においては、断片、対立性、即興、またそれらの緊張状態などを取り込む余地があるものです。」ヴェンチューリはここに可能性を見ていたのだ。多様な建築への欲求は十六世紀のイタリアや古典時代のヘレニスム期、マニエリスとの時代において共通に見られた姿勢である。

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小嶌氏が注目する、WeWorkとは
Do What You Love 、つまり「心から好きなことをせよ」。
仕事は自己実現の手段であるべきだという哲学が込められた、同社を象徴する言葉であり、世界中のクリエイターを魅了するストレートなコンセプトだ。
WeWorkは現在、開設予定を含めて全世界52都市に211拠点を持つ。メンバーは世界に約14万5000人いる。まさにコワーキングの雄である。もちろんメンバーはこの言葉を地で行くような「成功した自由人」ばかりではない。
「自己実現している人に囲まれていると、自然に同じようなマインドを持つことができるようになるものだよ」「頭で考えてしまうと難しいけど、体感すればよくわかる。・・・・・
僕たちのネットワークに入れば、世界中のクリエイティブな活動を間近に感じることができる。好きなことをやって成功しているメンバーの体験を共有することで自分もそのムーブメントの一部なんだという実感が得られるからね」と語る共同創業者のミゲル・マケルビーはオレゴン大学で建築を専攻し、2008年に後にWeWorkを立ち上げるアダム・ニューマンからシェアオフィスの構想を聞く。2010年にWeWorkを共同操業した後は、チーフ・クリエイティブ・オフィサーとして建築インテリアデザインを取り仕切っている。
空間設計に際してはデータアナリストを交えてユーザーの行動を徹底して分析して、空間設計を提供し続ける。各都市ごとのユーザビリティを追及し、個々の文化に根ざしたローカルな運営ができる空間を設計していく。
「運営方法は地域によって様々だけれど、ポジティブな空気は共通だね」(WeWorkJapan CEO クリス・ミゲル)属性も専門分野も異なる、物理的に離れたオフィスにいるユーザーが等しくモチベーションを保つためにWeWorkが独自に運営するこのコミュニティが効果を上げている。
WeWorkが目指すのは単なるアウトソーシングの効率化ではない、「それぞれの地域には得意分野があり、それは素晴らしいことだが、だからといって固定観念に縛られ、その能力を限定するのではなく、むしろ従来の役割分担をひっくり返し、ポテンシャルを育てること!」だという。
それぞれの地域、世界で創造的な役割を果たすための手助けである。入居者で近年法人のユーザーが急増している。2016年は新規メンバー約1万6000人のうち、30%がグローバル企業の社員である。
「小さいものから大きいものへの影響力」WeWorkが目指すのプラットフォームになることである。「前に倣え」の大企業病への処方箋となる。この失敗を恐れなくていい環境は、日本のイノベーターにとっても良い触媒になるかもしれない。

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まとめとして・・

世界を巡り、探索を続ける小嶌氏が共創を生み出すコワーキングスペース4つの設計要素を上げる。小嶌氏は設計者、デザイナーとしての眼差しで「場」の生成を分析している。
集める(利用者が集まるための要素)集める(利用者を選び決定する項目)つなぐ(連携・関係をつくる仕掛け)育てる(メンターやアドバイザーから学ぶ仕組み)といった要素で空間を調査分析していく。
イノベーションの原点は新しい知を生み出すことである。経済学者ヨゼフ・シュンペーターは「新しい知」は既存知と既存知の「新しい組み合わせ」から生まれると説明する。人は新しいアィデアを考え付くときにいままでつながっていなかった知と知をつなげている。現在のようにネット環境が発達すると、仕事による近接性は必要なくなる、というがそれは違うのではないかと思う。
ネットで得られるような知や情報は、年齢・経験に関係なく誰でも入手できる。ということは、ビジネスの優劣を決定という意味では、価値がないということだ。本当に価値ある知や情報は人と人が直接交流して得られる知と情報なのでは。
だからアメリカのシリコンバレーにあれほどの企業がいまだに集積するわけだし、コワーキングスペースのように様々な人々が集まる「場」に「知と知の組み合わせ」が次々と生まれていく。今、企業にとってコワーキングスペースが必要だと説くJLLコーポレートソリューションズのマリー・ビュイバローはキーワードとして「イノベーション」と「コラボレーション」と「ヒューマンエクスペリアンス」を上げる。
長年世界のクリエイターやスタートアップを観てきたWeWorkのミゲル・マケルビーは、あることに気付いた。どんなに優秀で独創的なアィデアの持ち主でも「自分よりも優れた「何か」の一部になりたがっている。・・・

コワーキングスペースが創造する「未来」がそこにある。

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