巨大艦隊パナソニックが挑む大企業からのゲームチェンジ! 

大企業の枠組みを崩さないままイノベ―ティブな商品や技術に取り組もうという活動が活発化しているが、そもそも従来の“活動”でイノベーションは起こせるのか?企業組織というのは、個人よりも全体の和で物事を進める機能が強く働く。雁首を揃えて討議する中で個人の考えは抑えられる傾向が強く、個性とともに前へ前へと駆動する個人の思いが届かないことが多い。これでは組織全体に影響を与えるほどの大きなエネルギーは生まれない。つまり大企業の活動によってイノーベーティブな新規事業の“創出”はできないかもしれないのだ。しかし大企業というスケールの大きな枠組みが在れば、イノベ―ティブな発想・事業提案を生み出す環境を整えられる可能性は大きいと言える。“新規事業開発室”まさにイノベーションの源泉ともいうべきアイディアを求められる部署の室長を任された深田昌則氏は半年間考えた。



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大企業は鈍するのみで、変化の速さに追従できないのか。大企業には重さもあるが、一方でゆるぎない基盤もある。要素技術の蓄積、細かな機構設計から量産、流通、保守に至るまで必要な要素は全て社内出そろう。費用もかかるが、大きな規模でのビジネスを作れることに大企業の価値があり、そこにベンチャー的な“小回りが利く組織で革新的アイディアを素早く始める”という手法を持ち込んでも大企業本来の強みを活かせないこともある。“社外に対して開かれた手法でなければオープンイノベーションではない”という制約を外してみると、既存の大企業という枠組みの中で企業が持つ本来の力を引き出すという意味において“オープンイノベーションの精神”を取り入れることができるなかもしれない。大企業ならではの良さを活かし、新しいアィディアを製品化へとつなげる流である。1989年入社、以来一貫して海外でキャリアを積んでいた深田氏は2014年夏まで、商品販売の現場を経験していた。そんな中、カナダにおけるパナソニックブランドの急速な伸長を目の当たりにしていた。理由は高画質なプラズマテレビの供給に在った。その後パナソニックはプラズマテレビからの撤退を決め、カナダのパナソニックは中心となる商品を失うことになる。しかしブランドの中核を担うユニークで画期的な製品があれば、パナソニックブランド全体の底上げができると確信も得られた。同じような事は、中国における商品でもあった。キッチン家電や美容家電に対する厚い信頼であり、常に新たな商品ジャンルの開拓への期待にあふれていた。しかし、ひとたび日本に戻り日本の家電事業における新規事業開発を見ると、ほとんどが既存事業の継続商品ばかりであった。すでに既存領域で出来上がっている大きなプレゼンスを既存事業領域で改良していれば、収支は確実に取れるからだ。当然ながらそこからは新しいアィディアは生まれない!

アプライアンスが見る未来とは!
 

2016年4月、アプライアンス社は立ちあがった!アプライアンス社の概要は、パナソニック社の社内カンパニーとして家庭からオフィス・店舗にいたる幅広い空間に対応」した商品を提供することによって人々の豊かな暮らし、快適な社会に貢献するグローバルトップクラスのアプライアンスカンパニーを目指している。

2015年に2025年に向けてアプライアンス社の社長 本間哲郎氏を中心に、中期経営計画を立案するプロジェクトを進める中で、社内の事業再建や構造改革という枠にはまらない、未来の家電市場を支えるアイディアを育てるという方針が固まった。10年後にパナソニック・アプライアンス社はどうあるべきなのか。これまでは「暮らしの願いを形にする。」が事業ビジョンであった。技術の前進が、常に商品の改善を意味する時代はそれでも良かったが、あらゆる商品ジャンルの性能・機能が底上げされてくる時代となると、別の切り口が必要となる。「これまで成功してきた経営手法、発想、組織の形が今後通用しなくなるのではないか。ではどうすればいいのか?従来とは異なる発想を、社内から集めていくにはどうすればいいかを議論した。」(深田氏)

2016年4月「GCカタパルト」が始動し、社内公募が始まった。社内の有志で新しい家電の開発を行なっていた挑戦的な社員たちや、志を一つにする社員が偶然出会いチームを作っていった。

社内で様々なアイディアを集める社内ベンチャーコンテストは、パナソニックでも松下電器産業の時代からあった。しかし実際に商品化するには、相応の予算と商品化するための組織が必要となる。まったくの新規プロジェクトはリスクが大きくて、成熟市場では既存の事業ラインに乗らないアイディアは、どの様なものでも投資が行われず消えていった。結果アイディアはアイディアだけで消えていくことが恒常化し、アイディアを商品化する雰囲気そのものが社内に存在しなくなっていった。このような流れを打破するために「GCカタパルト」は立ち上げられた。オープンイノベーションに長けた外部アドバイザーを迎え、方法論やコンセプトにオープンイノベーションを取り入れながら、社内の活性化、従来の方法とは異なる手法での製品開発、プロジェクト編成を模索する試みである。社内応募には44組の応募があった。まるで異種格闘技のようで、一つの枠組みで括れない内容であった。その中から一次選考にあったては基準としての考え方、ポリシーが存在した。「マイクロソフトやアップルが現れてもIBMが生き残ったのは、IBMだからこそ可能なITソリューションビジネスを提供し続けたからだ。」(深田氏)ベンチャーにできることを大企業が模倣するのではなく、パナソニックが持つ規模や生産技術、グローバルなネットワークを活かしたプロジェクトに仕上げられる可能性が見えることを規準とした。巨大企業の組織的問題はあるかもしれないが、これまで松下電器時代から築き、蓄積してきた長所を捨てる必要はない。従来のパナソニックからは生まれなかったアイディアを、パナソニックでなければ実現できないプロジェクトとして育てる。そんなコンセプトで開催された第一回GCCの結果が2017年3月「SXSW」で一つの区切りを迎えた。2016年7月」最終選考に選ばれた8つの事業がお披露目となった。

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楽観主義(オプティミズム)を危機に変えるということ、そしてその危機に何かを語らせるということ。 

危機的な現実から既存の枠組みを守り続ける大企業の心地よい虚栄心や自己愛から抜け出さなくてはならない。カタパルトとは発射台のことで、古くローマ時代は投石器のことである。パナソニックという巨大艦隊に備えられたカタパルトは社内のアクセラレータとなり、社内外の多くの人々を巻き込む共創の場をつくり、新しい製造業の在り方を模索していく。メーカーがメーカーで在ることがいつまで続くのか、事業アイディアを具体化できる風土づくり、ビジネスモデルに磨き上げる活動、事業化を実現する投資の仕組みづくり、これらを同時に一気にやる。リーン&スピードである!「仮説を立て形にし、絶えず修正を加えるリーン・スタートアップも含め、当たり前の事を当たり前にできる環境を大きな企業の中で実現したい。」(GCC事業開発リーダー真鍋馨氏)「事業のポートフォリオ自体を書き換えられるような、新たなビジョンや商品を生み出したい」GCC運営陣(鈴木健介氏)「新時代をつくるという熱意と、一気にプロトタイプを作成して具体的な議論から実現へ到ろうとするスピードに触れて、新たな道が開いていく感覚を抱いている。」(ヘルスケアウェアラブルチーム秋元伸浩氏)「商品のユーザーとメーカーといった壁が崩れていく感覚を体感している。」(住空間のディスプレイの感応性を探究する谷口旭氏)「商品開発の在るべきサイクルをしっかり回せることに、とてもやりがいを感じる。」(洗濯機の新規ソリューションを考える大倉さおり氏)プレゼンテーションを勝ち抜いた8つのチームのメンバーは、ポジティブなムードに満ちている。要因のひとつは“共感”である。GCカタパルトは家電=ハードウェアという枠組みを取っ払い、既存の事業形態では考えられないようなサービスまで含めて探究していく。「社内スタートアップをいち早くSXSWのようなイノベーション最前線に提示し、そこで得られた知見を社内にスピーディにフィードバックしていくのが狙いだ!」(深田氏)活動のキーワードとしては、Social<社会の課題を解決する家電>Engapement<繋がる事>Empathy<共感が呼べること>である。行動指針として、Unlearn<今までまなんできたことと、固定概念を頭からはらう。>Hack<叩き切って、固定概念を変える。>劇的な断定と荒々しい挑戦的態度である。

変化は外界と接するところで変化する。CoreはEdgeに移っていく。

世界は大きく変わりつつある。1920年からのシステムは70年の安定期の後1990年代のSNSの普及とAIの進歩をきっかけに2~3年のサイクルで大きく変化し続けている。現在は常に変化が発生する不安定な時代ともいえる。(John Seely Brown)「新しい」ということはすでに存在するものから外れている、あるいは離れていると定義するならば、「新しい」とは2次元の平面状のグリッドには映しきれない創造的で物質的な不安定さから産まれるものである。「新しいもの」は万人の周囲どこにでもある「外部」から届くものである。私たちは何かを実行する際の「過激」な状況の中に、また物質が熱狂的に流れている激しいモバイル環境へリアルタイムで関与している状態の中に、「外部」をはっきりと目撃している。あらゆる既存のものを排除する時、危険な状態になる。あらゆる過激なスポーツ、例えばスカイサーフィン、バンジーバレエ、BMX、スピードクライミングなどは到達し維持しなければならない限界がある。言い換えれば「ぎりぎりの境界」として理解される。ギリギリの境界に立たされた時、わたしたちは危険に晒されると言われる。物事の周辺では非常に多くの次元の事が一斉に重要なやり取りを強いられるのだ。GCカタパルトもこのような行動を目指しているように見える。カタパルトから放たれたそれぞれのプロジェクトはフルメタルジャケットをまとって空中戦に放たれる弾丸である。

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最後に第二次世界大戦時、天才的戦闘機のパイロット チャック・イエーガーの格言を記しておく。

敵よりも多くを見よ。パイロットにとってこの格言はただ一つのことを意味する。物体から目を離し、物体優先に目が行ってしまう癖を直せ、ということである。空間全体を取り込み、すべての物を見るような焦点を取るための矯正法を、イェーガーは明らかにしている。

四次元すべてを使え。標準的なパイロットであれば、空間を三次元の連続体と捉えている。しかし空中戦においては時間に対する正確な感覚、とりわけ、柔軟な感覚を持つことが重要である。「スロットルを操ることで時間も操っている」ということである。ここでいう時間とはすなわち、そこから他の全ての次元が繰り広げられていく次元なのである。時間という次元はあらゆるものに隣接し、どんな境界にも迫り、全ての新しい局面への入り口を指定し、あらゆる生成へと通じているのだ。

イェーガーの最も神秘的な弾丸を放て!という格言。飛行機を誘導するためには、飛行機を自分の体の延長にすることができなければならない。私達はまず飛行機の事を忘れなければならない。あなたの焦点が開くにつれ、飛行機はあなたの中に引き込まれてゆく。(宇宙は金属のようなものだ!)旋回のことすら考えるな。ただ頭か身体を回し、飛行機をついて来させるだけだ。狙いを定めたら、その位置に弾丸を放て。