微生物が発酵するごとく「経営者意識」が醸し出されていったこと。

就職活動の時、「これがしたい!!」というものは特にありませんでした。だから有名な会社に行けば優秀な人と働けて、きっと得るものも多いだろう・・・ その時は安易にそう思って、とにかく大手ばかりを受けていましたね。と語る岡田充弘氏は1996年日本電信電話(株)(NTTは日本の通信事業の最大手であるNTTグループの持ち株会社で、東京証券取引所のTOPIX Core30の構成銘柄の一つで世界的なリーディングカンパニーである。)に入社した。

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企業情報通信システムを扱う関西法人営業本部に配属され営業成績トップとなる。また支店初となる精密機器製造会社のBRPプロジェクトを獲得しそれをリードした。( BRPとは売上向上、収益率改善、コスト削減といったビジネス目標を達成するために、現在の業務内容やプロセスを分析し最適化すること。)その後IBMとの合弁会社に出向しそこでも大手商社大規模BRPプロジェクトを獲得した。5年間をNTTで働いた後、「尖った」会社を望む気持ちが強くなり、2001年よりプライスウォーターハウスクーパースというコンサルティング会社を選択した。

PwCは世界159か国に18万人のスタッフを擁する世界最大級のプロフェッショナルサービスファームである。世界4大会計事務所(Big4)の一角を占める。PwCの企業形態は、LLP<有限責任事業組合>と訳される。その法的構造は通常の企業とは大きく異なり、世界規模のファーム(事務所)はそれぞれ自律的に経営されるメンバーファームの集合体である。同社ではハイテク業界におけるサプライチェーンマネジメントや組織変革などを手掛ける。自社プロジェクトとして丸ビルオフィスにコンサルトの癒しと知的交流の場「ピアッツァ」を企画・設計し現在も稼働中である。NTTとは企業文化もオペーレーションも全く違い、非常に刺激的な環境であった。「こんな世界があるんだ」と思い知らされたりもした。

2005年より世界最大の組織・人事戦略コンサルティング会社マーサージャパンへ、マーサー(英語社名Mercer)は組織・人事・福利厚生・年金・資産運用分野におけるサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファームである。全世界に21000人のスタッフが40か国以上約180都市の拠点をベースに130か国以上で28000超のクライアント企業のパートナーとして多彩な課題に取り組み、最適なソリューションを提供している。同社では大手金融機関の再生案件や自動車メーカーの組織・人材変革プロジェクトなど多数の変革プロジェクトに参画、又社内のIT活用を推進し、多くのビジネスシステムを企画・設計した。このころから「経営者意識」を持って仕事に取り組むようになった。

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多くの改革による再生と再発酵そして新しい方向へ・・・

2006年よりカナリアの前身である甲南エレクトロニクスにマネージメントディレクターとして参画。同社は神戸に拠点を構え、遠隔撮影用のリモコン雲台を開発・製造販売している。ここで、事業再編・ブランド構築・プロセス改革・ナレッジマネジメント・経理改革・オフィス改革を短期間に断行し創業以来最高の業績を達成した。なかでも一番意識をしたのは「ブランド構築」であった。自分たちの「使命」と「価値観」を定義することで、従業員の意識と商品の方向性そして企業文化が明確に構築されていった。2008年にカナリア株式会社に社名を変更し、自ら代表取締役に就任した。

その後も「ブランド構築」は継続している。この戦略の最大の目的は差別化、differentationによるイメージの形成である。ブランディングとは世界中の膨大な情報の渦の中で消費者にとってブランドの持つ力は一つの指針となる。一言で説明するならいわゆる宗教のようなもの。私達は快適に過ごしたいと願っている。その理想のライフスタイルを送るための手助けをしてくれるものである。

ブランドcanariaとは世の中に無いモノを、ゼロから考える。ITを徹底活用し、人材力を極限まで引き出す、そしてカタチある製品として具現化する。過去のしがらみとも決別し顧客(放送・医療・土木)と製品も徹底して絞り込んだ。そんなモノづくりの精神をシンボライズしたブランドがcanariaである。「can+realize」実現できるを語源としたブランドだ。「世界から撮れない場所を無くす」が事業メッセージである。

2013年4月より脱出ゲーム企画会社 クロネコキューブ(株)を設立し、代表取締役に就任。設立2年で年間公演数が240回以上、参加者が10万人以上の関西No1の謎解きイベント会社に成長。そのミッション(経営理念)は「ワクワクで世界を変えていく」謎解きの楽しさを一人でも多くの人に体感して欲しい。謎解きに必要なものは観察、ひらめき、思考だ。知識はほとんど要らない。小さな子供からお年寄りまで謎が解ける醍醐味が体感できる。また謎解きをチーム戦で体験することにより、見ず知らずの人たちが互いの頭脳を結集し問題を考えることにより協力関係を構築し深い絆が出来上がる。

これは必要とされていたけれど まだ世の中になかったものだ。法律に触れなければ理論上なにをしてもよい場所に私たちは生活している。でもその場所で自由に動き、誰かと熱狂を分かち合うことは意外と難しい。「見知らぬ人とともに閉じ込められる」という限定された状況だから、人は自由に振る舞い熱狂できる。なぜならその場所には自分で切り開くべき物語が在るからだ。物語の中で、間違いなく役割を果たすことができればこの空間から脱出できる。クロネコキューブの主なサービスは多岐にわたる。

例えば謎解きによって地域を活性化させる。観光マップには載っていないが不思議な魅力に溢れた場所、そんな隠れたスポットをゲームの舞台にすることにより住人や訪れる人たちに地域の魅力を再確認してもらう。法人・団体イベント社内向けイベントの実施は手軽な余興からカスタマイズしたものまで要望に柔軟に応じる。法人・個人研修参加型謎解きイベントを応用した企業研修でチームビルディングや情報応用のあり方を学んでもらう。また自主公演の主催者で行う公演はクロネコキューブの世界観を存分に楽しめる。

受託公演は依頼主団体が主催する参加型謎解きイベントの企画・制作・運営の協力またはパートナー団体として共催を実施している。ここは必要とされていたけれど、他の場所には無いエネルギーを生む場所。限定された空間と時間は、自由な発想と大きな熱狂を生む。謎解きイベントは集客に苦労するテーマパーク(年間集客力300万人越えは上位16施設のみ)やスポーツ、音楽などのイベントに比べて既存の施設や環境を活用し低コストで短期間で準備ができ、制作人員も少なくその消費範囲は広域であり、ユニークなコラボも取り組めてそのポテンシャルは大きいと言える。

2015年10月よりミニマル建築・デザイン会社 ウズラ(株)を設立し、代表取締役に就任。あえてカタチから変えていくアプローチによって、街・人・組織の活性化を目指す。<私達は日常、今いる場所や目の前の物理的形状から、何らかの心理的、行動的な影響を受けながら生活している。そのことに関心が払われることもそう多くは無い。しかし身近な空間や身の回りを取り巻くモノの形状ほど、人間に無意識の影響を与えるものは無い。その影響力はメディアやUIと同じか、それ以上と言っても過言ではない。そこで私たちは、それらの巷に溢れている「ありきたりのカタチ」をデザインし、「あえてカタチから変えていく」ことで、街・人・組織を活性化させ世の中に新しい命の息吹を宿していく事を目指していく。>

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時代は遷るそして、新しい海図を示すために。

1996年岡田氏はNTTから我々の棲む時代に向けて、そのキャリアを出港させた。先に航海に出た我々の世代はと言えば・・・<1990年代世の中が一夜にして変わってしまう様な経験をそれまで持たなかった。個人に頼るべき技術さえ「会社」に委託された。「会社」にしか居ないのがプランナー達だ。「企画」と呼ぶ他はない曖昧なテクニックを我々は容認していった。先の80年代に広告の中心がテレビに移っていった以上ある意味仕方のない承認だった。「会社」によって仕掛けられたテレビ中心の大型キャンペーンこそ90年代であった。

ある意味民主化され管理され同時に希少価値を失ったように見えた。個人の物語がどんどん失われていくようにも見えた。表現の本質が「個人」から「会社」へとリレーされたわけではないと思っていた。そう思いながらも「会社」の持つチカラに頼り、我々は仕事を続けていた。プランナーの多くはサラリーマンになってしまった。時代は正しい方向に推移するのではなく、ただ便利な方角に向かうだけだった。>・・ここで少し時間を遡っておくと、NTTの前身である日本電信電話公社は第2次オイルショックにより、1981年3月(昭和56年)3月に鈴木内閣は、日本経済団体連合会(経済連)の名誉会長土光敏夫を会長とし増税なき財政再建をスローガンとし第二次臨時行政調査会が発足させた。

その第2次臨調の答申事項の一つとして、政府公社の民営化が含まれていた。この答申を受け中曽根内閣の民活路線のもと、3公社 日本電信電話公社、日本専売公社、日本国有鉄道の民営化が議論され実現へと向かっていった。1985年(昭和60年)4月1日に「日本電信電話株式会社法」が施行され、日本電信電話が発足した。90年代に切られた舵は今も尚有効である。しかし絶対ではない。取りあえずそのまま蛇行を続けている。もう明日にも、新しい目標がセットされ新しい海図が示されるかもしれない。

人が育つ一番の要素とは、岡田氏の示す新しい海図。

会社を成長させるためには「情熱」だけではなく「情報」の扱い方が重要。岡田氏が情熱を傾けていることは「教育」である。まずは情報の扱い方に関する基礎技術をしっかり覚えること、そして大量の情報の中から事実や重要なことを見極めて、ロジックで整理できること。そうして社員一人ひとりが短い時間でより多くの情報を扱えるようになれば、チームとして創造性に満ちた環境を実現できる。

ITリテラシーによる知的生産性の最大化、具体的にはPC内での検索力向上・ショートカットキーの習得と啓蒙・タスク管理ツールの活用促進などである。ITツールもそのマシーン性能を最大に引き出す。高性能で汎用的なHW・SWを採用・初期設定で最速にして利用・定期的なメンテとリプレースを断行する。
隠し事の無い、明るくオープンなオフィスへ、これで利益が上がる。ミニマルな空間の力だ!
ブランドを押し出したWebサイトをデザインし製品単価は3倍増。ブランドを表現するデザイン力だ!
欲しい情報は10秒以内に見つかるようにする。リアルなものもオフィス断捨離で集約し整理する。あたかも住所の様に絶対的尺度で整理し情報を素早く取り出せる空間を構造化し定着させることだ!

かつて世界を覆ったピラミッド型経済モデルではなくマルチタスキングによる創造的多角化の推進である。これはリスクを分散させ、事業の生存率を高めていく。社会を市場をそこに棲む人を棲む世界を感じることが大事であり、あえて事業計画書はつくらない。今後も会社を増やし続け、社会に好循環を生成させる野生企業の生態系を創り上げることこれが岡田氏が示す新しい海図である。ミニマルデザインファームのウズラ社が設計するオフィス内バルを備えたSVANNAビルに今日も個性あふれる人々が集う。
結びとして、今問いたい祝祭と想像力の意味。

「祭りが明治時代なら明治時代に持っていた、あるいはもっと古い昔に持っていた意味と現在の管理社会の中での祭りというものの意味とが繋がると思うんですね。管理社会という事を肯定的に捉えれば、人間が危機に陥るということを出来るだけなくしてくれるようシステムが管理社会だと思う。それで個人的な危機に陥らないで、皆が平和に暮らせるようになっていて、しかもその社会全体が、かえって危機に押し込まれてしまうような状態が現在の私達の問題である。」

そこで文化人類学者の山口昌男氏が学問的挑発力を失わないでやってきたことは、単純なことで要するに始まりの始まりに立ち返るということ、始まりの始まりに立ち返るために、危機という構造を潜り抜けることが大事だ。そこにおいてアイデンティティを解体すると、人間の住んでいる世界が管理が管理されている世界のように一元的ではなくて多様になってくる。だから個人のアイデンティティの死が、無数の可能性をそこに引き寄せてくることがあって、いわゆる世界のイメージを固定させるものに対して立ち向かうという働きと似た関係が出現してくるという感じがする。アイデンティテイを解体するというのは一時的な危機を持ち込む分けである。それは個人の関係においても、集団においても祭りというのは皆が共同して危機の中に入るということ。こいうことは何も新しいことではなくて、例えば禅になどの「止観」という言葉があって、その中の判断停止ということで行われてきていて、想像力の根源には何かそういうところがある。祭りは始源に返る。<山口昌男>

お祭りは毎年あるということです。毎年ありながら、そのたび毎に終わってしまうという危機感がある。それは人間が生まれて死んでまた再生するということと強く結びついている。<大江健三郎>

岡田氏が示す海図と尖った世界は何かこのような祝祭と想像力に構造的に繋がっているように思う。


2017年7月 京都祇園祭りの中で。



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