西浜英彦氏は1964年東京都豊島区生まれで、1984年福岡調理師専門学校を卒業しマハラジャで有名なNOVA21グループの日本レジャー開発で外食産業のいろはを学び、バブル崩壊前に退職している。

1993年3月に「梅の花」に入社し研修生からそのキャリアをスタートし工場勤務を経て福岡で店舗研修、その後東京から大阪と営業を担当するという27歳からのたたき上げである。

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西浜氏を形成する基盤、NOVA21と梅の花について。 

NOVA21グループは全国でナイトレジャー店舗を展開する目的で、1968年六本木に日本レジャー開発(株)と日本アミューズメント(株)が創立した。「最後の20セント」「深海魚」「泥棒貴族」など絨毯バーの展開が前身である。1981年ノヴァ・インターナショナル(株)が創立しグループは70社を超えた。

マハラジャは1980年代から1990年代にNOVA21グループが全国展開した高級ディスコチェーン店である。

1982年大阪ミナミに1号店をオープンして北は札幌から南は九州・沖縄まで全国で展開した。
1984年12月に7店目の店舗として東京の麻布十番が旗艦店となりまさに社会的現象となった。
西浜氏が入社した年である。これまでのディスコの概念を変えた大理石・真鍮・装飾品を多用した豪華絢爛なインテリア、コンサートホール並みの音響効果、特殊照明、ガラス張りのVIPルーム、本格的な料理、服装チェック(ドレスコード)を実施、お立ち台、「黒服(タキシード)」や階級別に色分けされた征服の従業員による徹底したサービスなど、高級ディスコの手法が展開された。
1988年六本木トゥーリアの照明落下事故でブームは終焉したが地方では1991年頃まで続きジュリアナ東京の登場で再度ブームとなるが西浜氏はバブル崩壊を前に退社した。

梅の花グループは梅野重俊が平成2年1月設立、店舗数270店舗売上高293億98百万円の規模である。1976年久留米市で立ち上げたカニ料理専門店「かにしげ」が創業店である。1986年、久留米市に「梅の花」1号店を開店。バブルに向かって経済がまっしぐら進んでいる時であった。
当時は給料が銀行振り込みとなり家庭の主婦が財布の実権を握り、カルチャースクールが盛んとなり女性をターゲットとにした店舗を作った。メニューは太らないもの、植物性タンパク質の豆腐、湯葉、生麩、野菜小さなポーションを多数使った盛り付け、路地裏立地を創意工夫した店舗演出。宣伝は新聞折り込みチラシ一回で後は口コミであった。
1号店は大繁盛で続く2号店もオフィスビルの最上階に出店し成功する。店舗で料理人を使わないセントラルキッチンシステムで多店舗展開している。<現在270店舗の展開である。>こんな創業者梅野重俊も「かにしげ」の後は失敗を繰り返した。
梅の花も8店目を出店したころバブルが弾けたこともあり業績が曇りだしたそれらを「人のせい、場所のせい」にしていたが、お寺に参り数珠まわしで出会った言葉「人に感謝、物に感謝」ああこれか、これが俺の足りなかったことだったんだ。で目覚めた梅野氏は繁盛店の視察を開始し「梅の花」の成功に繋げていった。この苦しかった頃を教訓に梅野氏は自己を形成し人の意見を真摯に聞くようになった。梅野重俊氏は西浜氏の大きな影響を与えていった。

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古市庵、古市久幸の背中を追って。 

古市庵は商社で営業をやっていた古市久幸が、「食の提供を通じ、生活文化の向上に役立つ企業体へ」という企業理念のもと、持ち帰り寿司「古市庵」を主力業態とし、全国の百貨店に店舗網を築き上げてきた。現在全国に(北海道、沖縄は展開無し)131店舗展開している。今年で創業41年、デパ地下で伝統の味を守りながらも、新しい挑戦を続けている。

12種類の具材を鮮やかにまとめた「うず潮巻」、季節ごとの具材を彩り鮮やかにまとめた「ちらし寿司」、大阪寿司の伝統である「押し寿司」、創業以来の原点であるいなり寿司など、おにぎりはそれぞれの地域の百貨店と取り組む「おにぎり畑晴れ晴れ」「おむすび紀行・越後屋甚兵衛」「俵大名・おむすび百選」で展開。カレーおにぎりなど変わり種もある。
年配の顧客に人気のおこわも販売している。「おこわ村案山子」「案山子の里」など、鹿児島県ではよく売れる。

「美味しい!の追求、西浜氏は主力の寿司を成り立たせるために食材にはこだわる。
米の表記は国産米であるが関東、東海、北陸、関西、中国、九州それぞれの地域で複数の銘柄を組み合わせて提供している。
素材には決して手など加えない。海苔は瀬戸内海産と有明産の板海苔を使い、酢は無添加でお酒から製造する純米酢にこだわる。社内ではこのこだわりを就任後一年半否定され続けてきたが、西浜氏の社長特権でこだわりの純米酢に切り替えていった。求めやすい価格でボリュームのある古市庵の商品群、この味と品質へのこだわりは浪速の食ビジネスを支えてきた先代ゆずりのこだわりを真摯に追いかける西浜氏の凄味である。

古市庵の「志」につながるもの。 

これから西浜氏が語られることは氏の経歴の中で出会った先達による教えと幾つかの外資系企業における事例から受けた影響が氏の中で咀嚼され熟成され行動としてほとばしるものである。これらの要素は全ての顧客にも従業員にてもその心を楽しみから喜びと幸せに変えていく大切な要素だと思う。

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<商品力、季節を楽しむこと。>

作り手も顧客も季節感を徹底的に表に出した商品設計に心を躍らせることになる。圧倒的なバラエティに富んだその季節感の表現は商品の識別効果を増幅させ「古市庵」というブランドの意味世界を創造し拡大していく。春夏秋冬の季節商品があり、季節を楽しんでもらうパッケージデザインが表現され、それぞれにPOPが作られる。グラフィックデザインとしては意図された絶妙のバタ臭さがあり、幅広い顧客に強い印象を与えている。
節句やお祝い、イベントに向けての商品も考えうる限り提案し続ける。
節分の太巻きは年間の中で単日で一番売れる。
母の日も梅の花との相乗効果で、メッセージカードと共に売れている。ハロウィンやイースターにも取り組む。さらにクリスマスに企画する寿司はびっくりするほど売れる。
POPも全企画に用意し、年間でかなりな数の記念日にも全て企画提案していく。半分以上は当たっていないが驚くべきバイタリティである。商品にかける包装紙と掛け紙も季節によって変わっていく。
おそらく掛け紙を変えているのは「古市庵」だけであろう。デザインは福岡のトシマカマボコの社長に依頼して考えてもらい、2か月ごとに切り替わる。
今までの古市庵の百貨店ならではの上品であるがインパクトに欠ける包装紙も残しているが、このパッケージデザイン手法を取り入れて他者商品との差別化で効果を上げている。
これらの商品戦略を担うのは経験豊かな男性二人と若い女性三人である。2014年から各種コンテストにも出品し数多の受賞を重ねている。「どこもかしこもやっているコトをやっていないならやろう。」おせち料理にも取り組み発売以来4年で120%の伸びを示している。従来梅の花で25000円前後の商品は古市庵の企画で16200円で提供される。

<販売力、販売を楽しむ。>

季節ごとのイベントではインセンティブを実施する。クリスマス、雛祭り、ズワイガニフェア、母の日、創業祭、秋の行楽フェアなど各々に10万円である。しかし上位の店は決まってくる、人である店長である。
販売コンテストも2013年から毎年開催している。販売促進策としてはインバウンドで海外からの顧客が増加しているので、プライスカードに3か国語、4か国語のものを用意している。手配りチラシもデパ地下立地なので集客はデパートに任せるしかないので、月末だけ手配りチラシを配布している。

<製造力、製造を楽しむ。>

メニューコンテストを実施し全従業員からメニューのアイデアを募っている。書類選考で100案にしぼり1次2次最終選考を経て10案の入賞者を決定していく。サルサ巻など変わり種メニューも生まれている。池袋西武ではパクチーいなり寿司が一日60個ほど売れている。多数の意見に耳を傾けながら製造現場が活性化していく。
製造コンテストも2013年から毎年開催している。「速さ」と[完成度]を競う。毎年全国大会を実施している。

<ファンづくり、お客様と楽しむ。>

公開試食会を2011年10月から大阪工場でスタートさせた。年間11回実施し、20人が参加している。今年の6月で60回を数えることとなる。2014年11月より東京でも開始している。参加するお客様は毎回はっきりと効果的な意見を述べてくれる。まさに草の根的に着実にファンを増やしている。また子供たちのために巻き寿司教室も開催している。


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<成長、成長を楽しむ。>

従業員がハッピーでお客様に前向きな気持ちでおもてなししていればお客様も喜んでくれる。「従業員満足とお客様満足の向上こそ利益をもたらす」というリッツ・カールトンの教えを基本とした古市庵の社内教育は4つのコースで成り立っている。

1.経営方針の浸透をねらいトップの考え方を知る。
2.ビジネスマナーの習得で心とコミュニケーションのスキルを学ぶ
3.チームで体を動かす、ゲーム性を入れてコミュニケーション力を強化する。
4.思考法と心の学びは年齢と役職で内容を変える、で進められている。

社員が自社の「志」と向き合う場として、「伝える」ことは重要な機会とされる。
社内コミュニケーションは毎日のラインアップ(朝礼)の実施と関東、関西、九州での年間11回の店長会議の実施、社内研修会は年間32回、そして製造コンテスト、販売コンテストを実施される。
社内報はうめ通信を毎月7000部配布する。

感謝に満たされて相互信頼が持続されていく事例としては、お客様に感謝2012年6月から自社スタンプカードを配布開始したこと。従業員にも感謝を忘れないでバースデーカード、クリスマスケーキ、すいかなどを配る。お客様からも掛け紙で折った折り紙や小物などが届く。心のこもったおもてなしや快適なサービスで提供される質の高い商品を提供するために一番大事なのは人であるという考え方が浸透していく。

古市庵の数字

M&Aの時はいつ倒産してもおかしくなかった、と西浜氏は振り返る。

古市庵の売上推移はV字回復を示している。梅の花グループが古市庵を子会社化した2011年9月売上は8724百万円、147店舗であった。2013年9月は8559百万円、131店舗と売上が減少していったがその後は上昇傾向である。実は34期2月の節分巻で異臭事件を起こしたのだ。原因は高野豆腐の乳酸発酵によるもので、中毒にいたるものではなく対応も早かったので事なきを得た。この失敗その後の古市庵にはプラスに働き、問題を起こした節分巻は翌年2014年31万本で売上げ1億8千万円、2015年は33万本で2億円、2016年は37万本で2億1千万円、2017年は38万本で2億2700万円と伸びている。

2016年9月売上は8975百万円134店舗、2017年は9100百万円を目標としている。

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古市庵の「志」とリッツ・カールトンの「クレド」のこと。

1983年リッツカールトンホテルが設立されたとき、ドイツ人社長、ホルスト・シュルツを中心に創立メンバーが集まり、「どういうホテルであればお客様が常に行きたいと思ってくださるか?それから他の方に進めたいと思ってくださるか」を話し合った。
その考え方をまとめたのがクレドである。クレド(英:creed)とは「信条」「志」という意味で、在るべき組織像や人間像を言語化したもの。
クレドと混同されるものとして「企業理念」(ミッション・ビジョン)がある。クレドはチームが進むべき道を示すコンパスで、理念を達成するために企業がとるべき行動を明確に表したものである。
クレドは、企業がどのような戦略を持っているのかを、社内外に明らかにし、他社との差別化を図るための手段となる。
これによって自社のバリューを明確に示すことができる。古市庵もこの戦略で行動していると強く感じる、それを西浜氏は理屈ではなく機をのがさない力強い行動で示している。
さらにはホームページ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのウェブ・コミュニケーションも大事にしている、広告宣伝費が潤沢に使えないころからの名残りであるが大きな力を発揮している。
キャラクターとしてうず潮太郎・おいなり三太郎・おにギリノスケなど宮城県出身の荒川リリーに依頼して制作している。取材にも貪欲に応じるしタイアップなども積極的である。
宮崎経済連や平戸市などの行政とのコラボレーション商品も開発し展開している。

むすびとして、人生の意味とは。

今月は人とは、人生の意味をかんがえさせられたお話でした。

『人間は本質的にとても社会的な動物だ、われわれ人間は誰しも根本的に十分よく似ていて、共通する何らかの人生の意味を持っています。我々は本質のところでとても社会的な動物です。
本当に驚くほど社会的。ユニークなのは、体が非常に大きな哺乳類でありながら群生するというところ。群生する動物の中で、体が大きいのは我々だけです。自覚していないけれども、群生するからこれだけの生産をすることができる。
したがって、多くの人が認識している人生の意味というのは、他の人たちとの関係ではないかと思います。まず子供や両親や配偶者など、自分が愛し心にかける者たちとの関係。そして、われわれは群生する動物であるために、「想像による共同体」というものを作り出すことができる。
ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」(邦訳河出書房新社)がこのことを論じてていますが、この能力のおかげで、われわれはどこに属するのか、そして誰を心にかけて世話するのか、といった思考をほとんど無限に広げることができるのです。ですから大まかに言って、他の人たちとの関係と他の人たちに何をしてあげられるかという感覚が、誰にとっても人生の意味の一部になっていると思います。サイコパスでない限り、他の人たちとの関係性とそれに付随する思いこそが大事なのです。』<Martin Wolf 英フィナンシャル・タイムズ誌の経済論説主幹>

5月定例会!


私の好きなパンクロックがBGMに流れる巻寿司の実演動画で締めくくられたエキサイティングな講演でした。


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