「有田川という未来 ARIDAGAWA2040 」ほしい未来はつくろう、がスタートしている。
旗振り役で推進するのは今回の定例会スピーカーの有井安仁さんだ。
1976年和歌山市生まれ。22歳で「訪問理容室ハンズ」という、高齢者や障碍者などへの自宅訪問理容サービスを立ち上げた。
そのときから「制度の外に在り見えない社会の仕組みそのもの」をよりよく変える必要性があると気づき、27歳のときNPOやソーシャルビジネスを支援するわかやまNPOセンターに理事として関わり事務局長となる(現在は退任)。
2010年より和歌山大学非常勤講師、客員准教授を努めながら、2012年より社会投資をデザインする会社株式会社PLUS  SOCIAL取締役、「公益財団法人わかやま地元力応援基金」代表理事を担い現在に至っている。
住民を主体とする地方自治(住民自治)の実現と、地域の潜在力を活かした多様なまちづくりのため、自ら考えて行動できる人材の育成を目指すなかで、住民自治によるまちづくりの事例として、ポートランド視察で学んだ視点やヒントで今回のテーマは論じられている。



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PORTLAND,OR オレゴン州ポートランドのこと。

オレゴンカントリーに起源を持つポートランド。
1800年代中頃のカリフォルニア・ゴールドラッシュの時、金を求めた人はカリフォルニアを目指し、一方でオレゴンカントリーを目指した人には320エーカー(東京ドーム28個分)の土地が与えられた。ポートランドへの移住者は昔も今も同じ方向を向いていて、お金よりも自然を愛し、DIYの精神を持ち、創造性に富んでいる。

ポートランドにおける住民自治は40年以上の歴史を持つ。
1970年代モータリゼーションのさなかポートランドは米国内で最も空気の汚い街であった、そのまちの景観におけるランドマークである、マウントフッドに行くための高速道路計画を連邦政府と州政府が市の中心部を貫くウィラメット川沿いに建設計画を進めようとした。
だが環境悪化を恐れる住民の反対運動が高まり計画を断念した。その後川沿いには公園が整備され、さらに道路整備を目的としていた国の補助金の一部を使い、「MAX」と呼ばれる路面電車を整備することで早くから環境に配慮したまちづくりを進めていった。「MAX」はバスなどと合わせて住民の足となっている。
1974年には「ネィバーフッド・アソシエーション(近隣自治組合)」という制度を創設した、これは市内を7つに区分して市民が身近な問題について解決策を議論・決定する場であり、バックアップする行政の組織とし「近隣参加局」を設置している。2005年からは住民が主体となって向こう20年間の方向性についての長期戦略計画の策定作業を始めた。
住民40人超で構成する委員会が中心となり、イベントやディスカッション、演劇、インタビュー、アンケートなどの手法を使い、約1万7千人の住民から意見を募ったうえで、報告書を策定した。さらに、2009年にはポートランド市都市計画及び持続可能性対策局を中心に、「ポートランド・プラン」の策定をスタートした。これは2035年までに市が採るべき政策をしめしている。ここでも地域の課題と解決策を行政、住民が議論し意見収集し住民自治の手法を徹底させた。

 

 

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KEEP POTLAND WEIRD

ヒッピーの文化が根強い街であり、THE NAKED BIKE RIDEという5000人ぐらいの人々が裸で自転車に乗って町を走り抜けるイベントが許されていたり、交通量の多い交差点に住民が絵を描き結果自動車のスピードが落ち安全性が向上するという市非公認のアクションなどヘンテコな行為を許容する風土が街には在る。絵のある交差点は周辺住民も道に面する私有地を開放したりして地域に開かれる。不具合は頼らず自分たちで直そう、CITY REPAIRというコミュニティデザインだ、ヘンテコなことにも理由がありWEIRDを受け入れるところに多様性が生まれる。そこにクリエイティブが生まれ問題を超えるためのイノベーションが起きる。

 

 

ARIDAGAWA 2040

有田川は、和歌山県にある人口2万7千人のまちである。
そして「有田みかん」の産地でもある。しかし有田川は、和歌山県内でも特に人口減少が深刻化している地域である。20歳から39歳の若年女性人口が著しく低下していて予測では2040年に8000人も人口が減少する。
働く世代1人が高齢者1人を支える人口構造となる。そこで行政からだけではなく民間から地方創生を実現しようと具体的な行動を起こしている。2015年7月に始まった「有田川という未来ARIDAGAWA2040」だ。
2040年を一区切りとしながらも、その先にある100年以上先を見据えた長期のプロジェクトだ。
その仕掛け人は、「社会的投資をデザインする」をコンセプトとする株式会社PLUS SOCIALの有井安仁氏である。主な活動メンバーは、みかん農家、教師、大工など有田川に拠点を持つ経営者、地元出身の大学生など多様であり、そこに役場の若手職員を巻き込み、官民一体となって取り組んでいる。自分たちで街を歩いて地域の課題や活用可能な施設や資源を見つけ、テーマを決めて、イベントを繰り返し開催し、当事者意識を持つ仲間を増やし、地域の課題解決につなげていく。
和歌山が和歌山で在り続けられる未来、暮らして楽しいまち、皆が住みたいまちを目指して。

 

 

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ARIDAGAWA meets PORTLAND

2012頃から有井氏はまちづくりについての知識を深めるため文献や資料を読み漁っていた。
その中でポートランドにも興味を持って行った。
たまたまポートランド市開発局職員の山崎満広氏が登壇する東京のイベントに参加して会話を交わす中で意気投合したことが縁となりこれがきっかけとなり、有田川でまちづくりを取り組むメンバーとポートランド市を訪れるようになり山崎氏の案内でポートランドのまちづくりを理解していった。
2015年山崎氏は日本での大きな取組としてはラストチャンスのつもりで、どこかのまちづくりに関わりたい、という思いを持って来日していた。
ここで有井氏の地方創生有田川と手を組むこととなる、そこに見たことが無い未来を一緒に見ようとする前向きの力が生まれた。「民間発信で官民一体となって地方創生に取り組む」という未来を一緒に創ることになる。
「有田川という未来」プロジェクトは“自分たちのことは自分たちでやっていこう”という意識のもとポートランドの行政が行った「住民を主人公にして官民一体を」という地方創生手法を、ポートランド市開発局の人たちの協力を仰ぎながら進めている。
2015年7月の「有田川という未来」フォーラム会は平日にもかかわらず約350人が参加した。
会場には山崎満広氏とエイミー・ネィギーさんが招待された。ここを起点として女性や若者や社会的弱者にも役割と居場所があるという認識で、それぞれの立場の皆が何を求めているのかを時間をかけて洗い出すポートランドスタイルのワークショップが開催されていった。
行政の委員会で決めて形だけのパブリックコメントを得るのではなく、パブリックコメントが先にあってそこから形にしていく、これがポートランドスタイルである。
自分たちで共通善を創りQOL(生活の質)を向上させ、暮らして楽しい有田川を実現していく。プロジェクトが変えようよしているのは、有田川の未来だけではなく、有田川という消滅可能性地域と呼ばれるまちで「民間発信で官民一体となって地方創生を行うという新しい取り組みを実現させることができれば国内の消滅可能性地域を救う一つの解決案をしめすことである。
有井氏や山崎氏はその社会的インパクトを見据え、有田川を起点に新しい事例を実現しょうとしている。

 

 

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PORTLAND STYLE その住民自治
根底にあるのは「住民自治」の考え方である。
行政学の整理に従うと、地方自治の本旨は自治体の自立的領域の拡充を図る「団体自治」と「自治体における自己統治」を目指す「住民自治」の二つがある。
具体的には前者は「国から自治体による事務事業執行に対する国の統制を緩和すること」とされ、後者は「地域住民が自治体の運営に日常的に参加し、住民の総意に基づいて自治体政策が形成、執行されるように仕組みを変革していくこと」とされている。
この定義に従うと、これまでの地方分権政策は、機関委任事務の廃止、国・地方の税財政改革を目指す「三位一体改革」に代表される、「団体自治」を充実させる制度改革だった。
しかし自治体に権限や財源が来ても、その自治体に主権者である市民の意思に基づいて運営していく仕組みがないとあまり意味が無い。市民の意思で行政をコントロールできるしくみを作ることが大切」である。「住民自治」を考える上では、住民が行政に関わっていることで「変化」を感じられる機会をつくる事が必要なのではないだろうか。
この点を強調するために、ポートランド市役所の議会の事を伝えておきたい。議会の議場に来た人はバックボーンを聞かれることなく、誰でも3分間発言できるルールとなっており、議場後方の時計には意見表明時間を費やした市民の思いを込めて、背面に以下の文章が刻まれている。
より良いポートランドの建設と「私達の時間」をより豊かに過ごすため、時間とビジョンを持ち、この議場に来てくれた市民を讃える。

4月最初の定例会にふさわしい、「未来」を考えさせられる講演でした。