理事長の橋詰です。1月定例会(2017/1/12)のレポートです。

プロダクトデザイナーの頭の中 In the Head of Product Designer

 

はじめに秋田氏の経歴は
プロダクトデザイナーの秋田道夫氏は1953年生まれ、大阪府吹田市の出身である。
1977年愛知県立芸術大学を卒業、私の一年先輩である。
ちょうどドルショックやオイルショックの影響で、日本全体が落ち込んでいた時期だった。同世代で企業のインハウスデザイナーになった人は非常に少ないその年にトリオ株式会社(現・ケンウッド)に入社、カーオーディオのデザインを5年半手掛けた。
その後当時製品デザインとしては当時のイタリアンデザインに比べても遜色ないソニー株式会社で5年半プロダクトデザインを手掛けてきた。
ソニーは知らないことを教えてくれる人を大事にする。
「人のやらないことをやる、つねに一歩先んずる」という企業理念、「自由闊達にして愉快なる理想工場」、そのような社風が独立後の氏の座標における基準点を据えた。
1988年にソニーを辞めて独立したがその数年後バブルがはじけ、現在に至っている。
事務所は代々木上原に在り、大阪からは遠かった渋谷、原宿、新宿など都内のトレンド先端地にはとても便利でありデザイナーとしてアンテナをはるには最適である。
自分をアクセスの良いところに置くことはとても大事で、スピード感のあるアクセスは自分と他者や外部世界とのギャップを埋めると氏は語る。
生まれ育った吹田市にはお祭りもなく外部とのコミュニケーションも深まらなかった、そんな潜在的な渇望感も現在の氏が構える制作拠点を成り立たせている要因のひとつである。

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「価値観」の共有
プロダクトデザインはふつう言葉にしないがたとえて置き換えることは可能である。
専門用語を極力使わないで平易な言葉で、でも深く難しいことを伝えていく。そして説明できないデザインはしない。
一般的に製品の説明は見かけるが、使っている人のことを説明する文章は見かけない。
そこに使う人の時間のことも入れて語ることが大事である。作る人のことよりも買って使う人がどう思い、どう感じているのかを言葉にしていく。
「使う人は作る人ではないが、作る人は使う人でもある。」「こころをかたちに」していけば「価値観」を共有できる。そして「説得力」には「つけおき」が大事、前ごしらえ、下ごしらえである。
そしてデザイナーの思考は醗酵し熟成していくことが大事である。
デザインや製品は評価されやすいが、デザイナーの価値はなかなか評価されない。ここで必要なのは「哲学」である。皆に役立つように魂を込めて、言葉と形にすることである。
氏のこの姿勢の背景に在るエピソードの一つとして、<1990年次にくる建築家は?この問いに隈健吾と答える人がいた。なぜならば「デザインができることは当たり前であるが、文章が書けるから。」とあった>自分の思考や哲学を言霊にかえて皆に伝えることである。

 

「価格をデザインすること」もデザイナーの役割
「一番優れたデザインは価格だ」、製品の付加価値として謳われているブランドやデザイナーの名前に対しては自身あまりお金を払いたくなくて、優れた物、優れた技術でできている物に妥当な値段がつけられるべきであると思っている。
だから製品の値段を決めるときに自分が買うかどうかは重要な判断基準となっている。100円ショップにもよく出かけて一番いいと思うもの買うこともよい訓練となる。

 

そして秋田氏のプロダクト製品について、
機能を増やすには技術がいるが、機能を減らすには哲学がいる。
ロング・ライフデザインとして、一本用ワインセラー2003年発売はオーディオデザインのキャリアがかたちに現われている。
使う人の時間が製品に重なる、例えば子供の誕生の時ワインを収納し二十歳の誕生日にワインを開ける。まるで小さなタイムカプセルである。
2023年の夢!そしてコーヒーメーカーは使い勝手が素直にかたちに結晶した。
二つに共通するものは使う人と「価値観」を共有するための想像力、<ワインの好きな人は若いころのライフスタイルとは>、耳から眼、舌そして匂い。オーディオへセンシティブにインスパイア―していく。このデバイススタイルの製品は“いろいろな場所で売る”ことを実践したブランドで家電量販店にその売場が設けられた。

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デザイン・ニューディール政策
薄型のLED交通信号機は景気に左右されることなく売れ続けている。
12年前に信号電材より依頼されたもので、高さは70センチで信号面は30センチ角で意外と大きいその背面は丸くデザインされている。
これもオーディオデザインに由来し立ての溝は雨水が残らないように水切りの機能を備えている。時を経ても古く見えないデザインである。長く公共空間で使われるデザインである。
六本木ヒルズのセキュリティゲートは1998年にデザインされた。使う人への思いはセキュリティではなくウエルカムゲートである。2008年にデザインされた新しいゲートは幅と長さは同じであるがより抜けの良いデザインとなっている。

「やさしさは新しい形を生む」
人が接するところはやさしくないといけない。ICOCAのチャージ機は見切れることそして「忘れ物」を防ぐため上部が後方に傾斜している。操作面下のくぼみは車いすでの使用を考えたバリアフリーデザインであり、決して押しつけがましくなくデザインされている。

ハイアールの洗濯機はイオン伊丹店で初めて売られた、乾燥機付き25000円である。上面がフラットなので洗濯カゴの置き場になる。冷蔵庫のハンドルは、従来の縦では開閉にしか役に立たないが、横にするとタオルなどがかけられる。この商品には無粋なPOPや本体へのロゴ表示もつけていない。家電量販店の売場でのリテラシーが向上していった。

「23時間をデザインする」
IHのクッキングプレートは使っていない時に、いかに邪魔にならないかを考えたデザインである。
ソファーセットは立ち上がりやすく掃除のしやすいソファーである。スマートな所作で立ち上がれるがすわり心地は落ちる、くつろぎよりも打ち合わせ用のソファーである。インテリアに置かれた姿もスマートである。

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「360日をデザインする」
セラミックジャパンの土鍋は収納場所をとらずに一年中使える土鍋。
従来の土鍋は左右ハンドルが出っ張るが、この製品は窪ませた、底もフラットでIHに対応し熱伝導の効率がいいかたちである。今通販でよく売れている。

「最先端は人に近づく。」
ロームの医療機器は医療の現場を明るくやさしくする。薬局での試薬のセットのしやすさとかたちのやさしさを考えたデザインである。ふっくらとしてフワーとインテリジェンスを感じる。薬剤のパッケージもデザイン、「なにをするものなのか」を明確にすることによって間違いを無くす。

「しつけ」のあるデザイン
例えば落書きされないデザインで品格と崇高感が伝わること。
プロダクトに優しさと凛とした気配を持たせること、そのために手加減しないでおもいっきり振り切ってデザインすること。そこに押し付けがましくないんだけど、しつけのあるデザインがたち現れると思う。手加減しないでおもいきり振り切った時にボールはまっすぐ飛ぶ。(タイガー・ウッズ)
シンプルなフォークとナイフとスプーンは柄の部分が太くて重い食べ物が軽く感じる。
ボールペン、書くことの大切さ重さを知らせる。朱肉は契約の重要性を「重さ」で伝える。

「条件」がデザインをつくる
製品をつくるということはなんでも条件だらけである。
条件を感じさせないデザイン、そして敢えて売れないモノを作りなさい、自分が売れると思ったことをやりきることが大事で、条件に振り回されずに自分の座標をずらさずに自分が使いたいモノを作ろう。「プリマリオ」のテープカッター(4万円)、スマホホルダーは新潟県燕三条市のアルミ、ステンレス加工メーカーで製造。製造技術における作り手の価値観をユーザーの価値観へと共有させる。このブランドは卓上のF1カーを作るような気持ちが込められている。
ルーペは円筒形の本体底部を三脚にすることで光が入り、ピンセットなどを使った細かな作業が可能となった。

 

最後に結びの言葉を幾つか

さじを投げない。

日常は「些事」だらけです。事務所のゴミを出したり、玄関先をはいたり、領収書をフォルダーに入れたり、お茶を入れたりとデザインとはまったく関係の無い仕事も日常にはたくさんあります。
しかしこれらの事がちゃんと片付いていないと頭の中に「澱(おり)」のようなものが蓄積されてそれが肝心のデザインのアイディアを考えるときの支障になります。
逆に日常の「些事」がスムーズに出来ると清々しい気持ちになって机に向かえたりもします。デザインの基本の基本は、絵でもセンスでも無くてそういう面倒なささいな事を前向きに捉えて処理する事かと思います。

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大量に使われる製品は、とぎすまされたふつうでなければならない。 

デザインすることは職業ではなく、一つの姿勢である。(ラズロ・モホリーナギ)

 人はみな、デザイナーである。我々が日々なしていることはほとんどデザインだ。なぜならデザインは

すべての人間の活動の基本だから。「生きのびるためのデザイン」(ビクター・パパネック)

「売れないものを作りなさい。」(平櫛田中・岡倉天心)

使い手、買い手は揺れている。それに合わせて(合わせたつもり)自分が動くと、いつまでも揺れは止まらない。何がポイントなのかを明確にするにはまず「自分が止まって」相手を見る必要があると思います。かっこいいのは使い手、買い手の目線を動かす事です。止まらないで、常に前を見据えて「先の製品」を作り続けること。

 

以上デザインとマーケティングの未来に向けていい言葉をいただきました。
未来は研ぎ澄まされて上質な過去の積み重ねと、不動の座標軸に据えられた現在から見えてくるものである。
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※秋田道夫氏によるかわいいイラストです。