「今、東京に養われている日本の農村。30年後は東京を養っている。」今回のテーマであるがこれは都市論である!

ポテトチップス事業で契約栽培を推進し市場価格の30%オフを実現したイノベーター、カルビー元社長、NPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長の松尾雅彦氏はカルビー創業者の松尾孝氏(1912年〜2003年)の三男として広島に生まれた。

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1945年8月広島に投下された原子爆弾を爆心地から1.5キロ離れた楠木町で被爆したが奇跡的に家族全員助かった。被爆者である松尾氏の原点はグラウンド0となった都市広島かもしれない。創業者の話に戻ると戦中、戦後の食糧難の中「健康にいい栄養のあるお菓子を作ることを志したい。」これが今日のカルビーの社名やかっぱえびせん、ポテトチップス誕生へとつながっていく。

息子たちが経営のバトンタッチを受け始めたのは1976年頃でポテトチップスが売れ始めたころである。1987年会長に就任した孝氏は晩年まで製品開発に取り組んだ。2代目聡氏、三代目雅彦氏はそのような創業者の遺伝子を受け継いでいる。

日本の食と農業の現実をデータで読み込み観察する事が大事であると松尾氏は説く。
日本の農業が衰退する原因は「少子高齢化」ではなく「向都離村」であり「自給率降下」である、主要因は農業基本法と1960年代の加工貿易立国推進による食糧の輸入依存、そして70年代の消費者のライフスタイルの変化により加工食品が倍増、家庭での調理が半減したこと。
そして1985年のプラザ合意により激しい円高の進行が追い打ちをかけた。穀物と飼料の2つの作物自給率を見てみると1965年73%であったが2007年には39%に減少している。

食糧自給力に大切なのは、水田より畑作地!今日本人がカロリーを摂取しているのは米よりも畑作地で栽培する作物のほうが多い。
畑作地は飼料を生み畜肉になる。稲作と畑作は真反対の栽培システムで「瑞穂の国伝説」による「田畑輪換」が畑作物の不興を招いている。
さらに農業・農村問題の真の原因は畜肉生産であった。

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田中角栄氏が日本列島改造論で示していたアメリカなどに依存していた飼料は2008年相場高騰で初めて農水省は「耕畜連携」を政策にした。
欧米では休耕地の草地化で飼料コストは0が多い。日本の畜産は輸入飼料に依存しすぎている、それが日本社会の崩壊の源の一つであり「食糧安保の実像」である。

ここから松尾氏のスマート・テロワールによる30年計画が提示される。

①国土において過剰になっている水田100万ha+放棄地50万ha以上を畑地と草地へ転換する。
②農村部の食文化の「美食革命」を日本人は欧風文化を広く取り入れて、食のコスモポリタンとなり最長寿国を実現している。自給圏内にある5つの食資源を活用:水産、水田、畑地、草地、森林(ジビエ)稲作だけでは生まれない耕畜連携の畑作文化圏の成長が美食革命を推進する。美食革命は女性がリードする、スローフードの創始者はイタリアもアメリカも女性である。それを地元愛が支援して多様な食循環型食ビジネスモデルを作っていく。
③自給圏のゾーニング、未来像の描出+農村計画書+「実証展示園」開設
土壌微生物を活かした「反収増ライン」向上の実証(飼料原価0)に10年、真善美に向かう10年、都市席巻に10年。
限界集落、市町村消滅が叫ばれる農村が覚醒すれば、都市が変わる。窮地の農村がスマート・テロワールで覚醒していく。四つの交換システム<市場経済、再分配、互酬、家政>で考えるならば現状は市場経済+再分配で都市の経済は「重商主義」である。カルビーの成功は契約栽培で「互酬」を実現した。農村経済を成功に導くのは「重農主義」に限る、先進欧州では普通のことである。農村部は自給圏(家政を構築し「互酬」経済で利他主義に立つこと、穀物の契約栽培によって長年続く「反収増ライン」の実証と地元愛が物語る。スマートとは地元愛で都市部の消費者と農村の生産者(サプライヤーの関係である。「利他」の循環によりインプロビゼーションを興し、美食革命に貢献していく。耕畜連携+農耕連携+美食革命松尾氏がいうスマート・テロワールである。

さらに松尾氏は語った。
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世紀これからの社会をどう変えるのか?(マーケティングの原点にたった仮説の設定)日本の将来像を描き国の存続を考えるために。

・グローバリゼーション(重商主義)ではなくサステーナビリティ(重農主義)
   環境の破壊者は誰か?

・効率追求は途上国の戦略先進国は真善美を求めて地域主義に向かう。
   先進国の重商主義が争いの元。地域の資源とお金を強奪、奪ったお金はどこ へ行ったのか。

・マーケティングは何をしたのか?食品大企業は農村経済を破壊し、国民の富を海外へ流出させた。
   さらに農村の食品工場の職場を破壊し地域内流通を壊した。

食糧輸入量増加が農村の衰退を招く、輸入を地域の生産に「置換」できれば「発展する地域」への道が開ける。ジェイン・ジェイコブズの仮説につながっていく。

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1961年刊行ちょうど日本が農業基本法のもとに加工貿易立国を打ち出し食糧の輸入依存を増していった時代である。ジェイコブスは同書でハワードやコルビュジエの流れを組む近代の正統派の都市計画および都市再開発の基本原理と理念を批判した。

しかし50年以上たった現在も都市計画はこの批判を乗り越えることができていない。

ジェイコブスは大都市における人々の社会的な行為や経済活動を詳細に観察して、都市が安全で暮らしやすく、かつ経済的な活力を生じるためには、複雑に入り組んだ極め細やかな多様性が必要であり、そうした都市の多様性が生まれる4つの条件を提示した。

①異なるいくつかの目的で、異なる時間帯に、様々な人が利用すること。(例えば昼はショッピング、夜は観劇や飲食、夜中はそこに居住)

②短いブロックで区切られ、横道がたくさんあって、目的地にいろいろな行き方ができ、通りに多様性があること。

③異なる古さ、タイプ、サイズ、管理状況のビルが混在していること。

④人口密度が(昼も夜も)高いことの4つである。

彼女はこの4条件が都市の多様性を確保しイノベーションの苗床機能につながると指摘している。同時にこれらの条件が安全で人間らしい暮らしを保証すると主張している。

またこの著書で、ジェイコブスは中小企業の集積は「都市的現象」に他ならないとしている。中小企業は内部資源に乏しく、都市の他の企業が供給する多様な製品やサービスが、中小企業の経済活動にも従業員の生活、余暇のためにも不可欠であるため、「都市がなければ単に存在することができないと述べている。そして「都市に存在する他の企業がもたらす大きな多様性に依存しながら、中小企業はさらに多様性を付け加えることができる。
都市の多様性はそれ自身更なる多様性の余地を作り多様性を促進する。」
以上の文脈で松尾氏の提示することとジェイコブスは繋がる。

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われわれマーケティングに関わる者は、経済発展の関係を分析し概念化(conceptualization)しなければならない。
初めに都市ありき・・・そして農村が発展する。

農作業を含む農村経済は直接、都市の経済と都市の仕事をもとに成り立っている。農村経済を基盤にして都市が成り立っているという農業優位のドグマはまちがいである。<ジェイン・ジェイコブズ 都市の原理 1971年刊行>

松尾雅彦氏の今回の提示は都市論である。