株式会社ベネッセコーポレーション(本社岡山)発行の月刊誌サンキュ!は現在発行部数35万部で20〜40代の主婦が一番読んでいる雑誌である。

今回お話をいただく山本沙織氏はコミュニティ開発部マガジンメディア課サンキュ!編集部に籍を置く。山本氏はサンキュ!を「複合メディア」と定義する。

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現在3500人の主婦ブロガーを組織しカリスマ主婦ブロガーがリアルな憧れの対象として影響力を発揮していく。月刊100万人の主婦にリーチし相互利用率は50%、ある種コミュニティの様に主婦が往来する90年代からの交通空間である。

1996年主婦向け生活情報誌としては最後発の創刊。2016年4月に創刊20周年を迎えたサンキュ!が創刊した1990年代はバブル崩壊のあと「失われた10年」と呼ばれ、インターネットが普及し出版市場が縮小していき、競合誌の休刊も相次ぐなか部数を伸ばし続けている。サンキュ!の読者とは、20年の歴史の中でその行動様式を大きく変えた主婦である。
主婦を変えた大きな環境要素は経済である。不景気とデフレ、雇用の不安定化が定着していく。過去7年専業主婦は6〜7割減り9割が働きたいと考えている。そんな中オシャレな節約を提案するカリスマ主婦が人気を博した。ここ数年は、不況しか知らない世代が読者の中心となり、共働き世帯も増加し「自分らしく豊かに暮らしたい」「目先より一生豊かに暮らす知識を身に着けたい」など生活に対する態度の成熟化が進んでいる。中心読者として37歳で未就学児を持つ年収664万円の地方に住む高齢のママという像が浮かび上がる。

サンキュ!が売れる理由として、山本氏が編集者に求めるものはセンスではなくテクニックであり企画は数字であると位置づける。

具体的には
1.ファン、シンパを増やす仕組みを作る。
2.数字をあなどらない。
3.驚きの提案の3つを上げる。
SNSの普及により自らをメディア化し発信する主婦が増えているそんな主婦を組織化しカリスマ主婦を育成し自分を認めてくれる達成感を得られる場、サンキュ!村というコミュニティを作っていく。さらに作り手の編集者のスキルを上げる。
取材に時間とお金を惜しまない!モニターブロガーよりアンケート取材を重視、インスタントカメラで自宅を冷蔵庫を撮ってもらいそのまま返してもらう。敢えてアナログな取材ツールで嗅覚を磨く。本人がスゴク無いと思っていることの裏にある顕在化していないリアルを見抜く眼力と嗅覚が必要だと言う。自覚の無いニーズを掘り起こすことがミソ、ブログだけでは真実は分からない。

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クライアントとのタイアップ企画においても商品の背景にあるモノを売り方として提案できること、コンサルティング出来ることが大事、例えばパナソニックのシニア向け掃除機を母子目線で提案しさすがサンキュ!と言わしめるなど、編集者は求められることが多様で総合的なプロデュース力が必要である。そこで効力を発揮するのは現場を重視した取材である。
15年前に編集部はPDCA重視のデータマーケティングを導入した、企画毎に何人の読者を獲得できるのか、精緻で正確なデータに基づいた企画作りを3号分同時の編集作業である。「サンキュ!獲得人数システムである。システムの利点としては企画の組み合わせ毎に部数が読めること、落とし穴は企画のマンネリ化である。

半歩先のニーズを作るために驚きの提案も生み出していく。
今どき雑誌を買う人ってどんな人?誰が買うのか、どう読むのか、スマホの様に持ち歩けるミニサイズを発売して大当たり。
雑誌そのものの価値を見直し定義し直していく、それは製本の綴じ方にも及んでいく。冷蔵庫から生まれた「おうち外食」

ミスタードーナッツなんちやってドーナッツレシピ、家族にうけたいおうち外食再現レシピ、などサンキュ!が面白い企画をやっているとメディアも注目し、面白いことやっている主婦へのオファーも増加する。
「子連れで祝うアニ婚」はJTBと企画を進めている、「1000万円貯める!」シリーズは最近の大ヒット、周辺の雑誌でマネされた。生きる力を育む「生活育」提案は子供の生活力を付けるために特に男の子に家事を教える。編集部全員が食育コミュニケーテーの資格を持っている。などの企画はキャッチコピー一つで、ヒットする。
ものは言いようでハンデを付ける、説明しない、トレンディに見せる、取材相手の言葉を使う、「その気」にさせられたらヒットする。できた気になる。
読者が「え〜w」と言ったらヒットする。ファン化する。など驚きの企画の極意を駆使していくが、失敗もある、アンケートを鵜呑みにせず本音を探ることが大事である。
ニーズを新しく作ると言より、既存のものを魅力的に見せたほうがいい、例えばお店公認おうち外食、記念日にアニバーサリー婚、酢・素レシピで作り置き など売れ続けるためには「変えていいこと・変えていけないこと」があるコアはブレさせないでプロセス、ニーズを変え、どのようなゴールにするかも変える。サンキュ!が売れる理由はこんなところにあるのでは。
立て板に水!山本氏の弁舌は留まることを知らない。

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サンキュ!が歩んだ20年は読者である主婦が大きく変化した、これから主婦はどの様に変化していくのか。上質な暮らしを求める、自分軸を持つ人が増えている。お金は賢く使う働きたい主婦が増えている。主婦は多様化していくなか属性ではなく嗜好性でつかむ事が大事だという。どの様な人がどのような気持ちで何が欲しいか。
今どきの主婦の気持ちとは1.自己実現2・「ぜいたく」=物があるのではなく、自分が満足する物を自分軸で相対評価は気にしないで選ぶ、さらに自分が社会と繋がるような消費を好む人。絶対軸、影響力のある価値観を持つ人<インフルエンサー>をサンキュ!は集めていく。3・輝き方は自分で決める。社会と繋がる女性の生き方は様々である。20周年のサンキュ!は明日の自分の可能性を感じながら進んでいこう!を掲げている。
サンキュあしたの私フェスなの開催、ママを救う男の家庭進出を応援企画鈴木おさむさん連載スタートなど女性の社会参加を応援するためにテーマを設定していく。目指すは女性も男性も子供も「一億総生活力向上!」である。最後に山本さんが売れる出版、編集のために一番大切にしていることを語ってくれた。

作り手の気持ちや情熱、チームの風通しをよくする、仲間外れを作らない、目標に向かって協力する。

シンプルな言葉ですが今回のお話の文脈の中では強度があります。

結びとして・・・・世の中が一夜にして変わってしまうような経験をそれまで持たなかった。80年代に就職したから 社会人の暮らし=快楽主義だと思っていたら、バブル経済が崩壊した。<東証株価が2万円を割る、89・12・29の最高値から約50%、時価、総額590兆円から319兆円に減少>モノが売れなくなった。宣伝・広告担当者は「広告会社」と組んだ方がその責任が曖昧になると考えた。広告は見直され、「個人」に頼るべき技術さえ「会社」に委託された。80年代に広告の中心がテレビに移り「会社」によって仕掛けられたテレビ中心の大型キャンペーンが“90年代の広告”であった。そしてインターネットによるSNS広告が加わり現在に至っている。特別な能力を持つ者だけに許された広告表現は、普通の言葉で表現されるようになり、広告表現はある意味民主化された。同時に希少価値を失った。しかし広告表現の本質が「個人」から「会社」へとリレーされたわけではないと思っている。
それを出版やマーケティングに置き換えても同じだと思う。個人に頼るべき技術<テクニック>で出版業界を疾走する男前 山本さん!マーケティング、宣伝広告表現の未来に向けていい海図を示していただきました。 Marketing of  the future!

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