新年度に入って最初の講師は、MCEI大阪ではお馴染み、株式会社JOYWOWヘッド・コンサルタントの阪本啓一氏。3月に出版された『繁盛したければ、「やらないこと」を決めなさい』に沿った講演を拝聴した。

会社の業績を伸ばしたい等の課題に対して、まずは、何をすべきかを考える。しかし、阪本氏は、何をするか、ではなく、「やらないこと」が重要で、そのことが、“とんがり”、つまり、強味、ユニークセールスポイントをつくると説く。経営の前提がコロコロ変わる今の時代こそ、大きくしないで筋肉質な中小企業に活躍出来る場があるという。

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阪本氏は、「大阪をシリコンバレーにする!」ビジョンのもと、中小企業経営者塾「Maido-international」を2011年から主宰、現在、100人以上の卒業生を輩出している。今回の講演は、多くの中小企業の経営者等と会い、直接現場に足を運んでいる阪本氏ならでは視点で中小企業から有名企業までの豊富な事例を紹介しながら、マーケティングやブランド論に踏み込んだ内容で、興味が尽きない濃縮の90分だった。

中小企業が筋肉質になるために、阪本氏の提唱する7つの「やらないこと」とは?

 

 

① 業界常識を「やらない」。
業界常識となって戦略の基盤にあるものを捨ててみる。
例えば、「俺のフレンチ」、俺のイタリアン」は、高級フレンチのドメイン「高価格」「豪華パッケージ」から「低価格」「回転率」へと転換してイノベーションを興した。グランメゾンの原価率が18%であるのに対して「俺のフレンチ」は90%、つまり、1/5の価格で、カジュアルながらも美味しいフレンチが食べられる。「俺のフレンチ」は業界の常識をやらないで新しい顧客を創造した。

 

② 自社を商品(サービス)で定義することを「やらない」
木幡計器製作所は大阪の100年以上の老舗計測器メーカーで、圧力計や差圧計などを製造販売している。主な市場用途は舟であるが、リーマンショック後、「2014年に日本で新たにが建造される船はゼロになるかも知れない」と言われた。そこで自社の事業定義を計器の製造販売から「圧の可視化」に見直した。その結果、医療業界などの新分野に参入するようになった。

<定義例>
・ダイソン=空気の流れ
・仁丹=包んで守る技術 例)シームレスカプセル
・アマゾン=届ける

③ よそで売っているものは「やらない」。
他社が提供しない価値、つまり、ブランドを立てるということ。
ブランドを構成するのは次の8つの要素である。
「世界観」、「ブランド・エッセンス」、「パッケージ」、
「カラー」、「ロゴ」、「ネーミング」、「ブランドゾーンと機能ゾーン」「価格」

④ ヨコを見てのプライシングを「やらない」。
価格は価値の宣言である。価値とは、ブランドゾーンと機能ゾーンを足したものである。

ブランドゾーン+機能ゾーン=価値
注意すべき点は、ブランドゾーンは、時間と共に、機能ゾーンに変わったり、薄まったりする。逆に、機能ゾーンがブランドゾーンに変わることもある。
また、本当のコストを知ることが大切である。顧客の支払う価格は、値札の金額ではないという認識を持つことが大切である。「東京と大阪の間には、3万円の川がある」。これは、東京から大阪のUSJに来てもらうということは、入場料以外に3万円の交通費を払ってもらうということである。

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⑤ 数字だけの顧客管理を「やらない」。
会計の原則、P(Price価格)×Q(Quantity数量)=S(Sales売上)に顧客価値体験値E(体験)という新たな変数を加えて考えることがこれからのビジネスでは重要である。

P(価格)×Q(数量)×E(体験)=S(Sales)

顧客は、体験をするために、店に来、買い物をする。
中央書店(広島)は、ボーイズラブ(以下、BL)専門のオンライン書店(ブランド名は「コミコミスタジオ」)としてBLファンの世界では圧倒的な存在感がある。

 

出版業界やリアルな書店がシュリンクしている中、中央書店は本の売上が年平均15〜25%増と成長している。成功の秘訣は、BLという狭く濃いインタレスト(興味・関心)に絞ったこと。中央書店中島社長は、「お客様は本から20%しかエンタテインメントを得ていない。残り80%を提供するのが僕たち書店の役割」という。

 

だからこそ、作家先生のサイン会や各種イベントなどを展開している。リアルなBLカフェも検討中ということである。また、「クレーム」とう顧客とのタッチポイントにきちんと向き合うことに決め、毎日の朝礼で昨日顧客からのいただいたご要望(クレーム)を共有することにした。

 

BLファンは好みが繊細であるので、少しの汚れや折れでもクレームの対象になる。濃いファンにしか「見えない」ものがある。お客様を変えようとせず、こちら(店)が変わるという方針を打ち出した。だからこそ、送料が有料(※)であっても、アマゾンと差別化出来、有料会員が1万人あると購入希望などが把握でき、出版社との関係が逆転するのである。※月額315円のプレミアム会員になると3,000円以上で配送料無料。

 

中央書店の事例は、BLファンに限ったことではなく、プラモデル、鉄道ファンなどの濃い興味がある顧客ファン向けに応用可能である。

 

⑥ 大企業に依存するのを「やらない」。
B to Bでは、中小企業は、大企業の協力業者となりがちで、原価を提供することになる。

河合電器製作所(本社:名古屋)は、創業90年近いヒーターのメーカーである。トイレの便座を温めたり、高速道路の料金ゲートのバーを温めたりするのはヒーターの働きである。

シャープ・ヘルシオの初代機にも河合電器にヒーターが搭載された。その後、ヘルシオの生産拠点を海外に移す際、河合電器は家電メーカーと一緒に海外に行くということを選ばなかった。自社の提供価値を、「ヒーターの製造販売」から「熱のコンサルタント」に変えた。「熱の困りごとを解決する」ことが商品になった。

 

⑦ 昨日と同じことを「やらない」。
古典『大学』の中に文章。
「まことに日に新た日日に新たに、また日に新たならんと。」
「日々、自己を新たに更新続けよ。」という意味であるが、日々、いつもsomething new、
昨日と違うことをやり続けることが重要である。

1995年創業のTシャツ専門ネットショップのイージーでは、自社ブランドの「nuts」シリーズは、販売開始時から、バージョンアップが一度もない品は1点も存在しない。

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最後に、阪本氏から、上手くいく魔法の自問として紹介された言葉が
「いま、楽しんでいる?」。
楽しくない時、自分の何か、何故なのかを考えてみる、決して、他人の責任にしないこと

自責で、NOT他責。

以上、阪本氏がMCEI大阪4月例会でお話された7つの「やらないこと」を簡単に紹介した。広島のビールの美味しい店「重富」や大阪・南森町のユニークなお土産店「MAIDO屋」などの事例、マーケティング・会計など、ここに紹介出来なかった興味深い内容が一杯ある。例会に参加いただいた方も、されていない方にも、是非、阪本氏の新著をお読みいただきたい。中小企業だけでなく、どんな会社・組織にでも活用出来る気付きが、必ず、あるはずだ。

お薦め著書
『繁盛したければ「やらないこと」を決めなさい』
著者:阪本 啓一 出版社:日本実業出版社

例会の後、FM802の開局時のことを思い起こしていた。
26年前、802の選曲コンセプトは、ロック・ポップスに絞り、演歌・歌謡曲・アイドル系はオンエアしないというものに決めた。FMラジオでいうと、選曲は、ステーションコンセプトをつくる重要な要素である。
何をオンエアするかだけでなく、何をオンエアしないかも重要。
1990年頃、アメリカのアーバン・コンテンポラリー(ブラック・ミュージック)の専門局では、マイケルは、”POPS”なのでオンエアしないと宣言していたFM局があったりもした。
そして、心に浮かんだのは、チャールズ・ダーウィンの有名な言葉。

『最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるでもない。 唯一生き残るのは、変化できる者である』